あ、  みなさん、みたってください。酔っぱらいが、死にますよ。ちょうどええですね。  酔っぱらいが死ぬところをみんなでみよう。  酔っぱらいにはいま、あたりが何にもみえていない、まっくらなところに居てます。さいしょの穴に、落ちたんですね。手探りに何かものがないかあたっているけれども、それかて無駄なことですよ、そこにはつぎの穴以外には、何もあらへんのですから。  さいしょの穴に落ちたら、もうほとんど終いです。うえには帰られんし、つぎの穴に落ちていくだけです。あんなふうにふらふらしてると、またそのうち落ちますから、みといてください。  酔っぱらいからすると、まだこのこれは夢か知らんと思うているところだ。酔っぱらいはいつも夜中、きゅうに起きて便所へいく。そのときこいつは、まぶしさで眠気が覚めてしまうのがいややから、電気をつけんと暗やみのまま、布団から便所まで行きよる。で、半睡眠状態のまま用を足す。  何につけても酔っぱらいは、うとうとしているのが好きやった。いちいち理屈で行動するよりかは、自分に入ってくる情報をあいまいなままにいなして過ごすほうが健康的やし、そうやって実際過ごしてみれば、考えようが考えていまいが、結果にたいした違いはない。とさとっていた。  酔っぱらいが酔っぱらいで居るのも、そうした性分からだった。  でもね、酔っぱらいは、何もはじめから酔っぱらいだったわけやない。そらそれに至るわけが彼なりにある。それはまたあとで説明するけれども、ともあれ酔っぱらいは、さいしょの穴に落ちたときの衝撃でいちど気絶して、いま起きたところだから、わけをわかっていないのも仕方がない。いつの間にか家に帰って寝てて、尿意をもよおして起きたんやろう、くらいに思っている。尿意もたしかにあった。  彼はだから、便所をさがしていた。  けれど便所はない。つぎの穴しかそこにはない。その穴へ落ちたらまたつぎの穴、そのまたつぎの穴と、何遍も落ちていくんです。しかもただ落ちるんとはちがって、ふいに落ちる。まっくらで穴がどこにあるかなんて、みえへんからね。やから、受け身も取られへん。毎回痛いですから、しんどいですわな。  でも死んだらそれしかないんですわ。死んだらみんなそうです。  いやよね。  と言うてたらほら、酔っぱらいがつぎの穴に、落ちますよ。  落ちた。  痛そう。  しばらく動けなさそうですから、ちょっとべつの話をしましょうか。  さいしょの穴に落ちるまえの酔っぱらいは、繁華街のわきにあるおおきい川の沿いに、屋台で出してるラーメン屋に居ていました。詰めれば6人は入るかな。けど酔っぱらいのほかは、彼が来るまえから居るふたりぐみだけだった。彼からみて奥の客は寝入っているようで、手前の客の丼鉢で顔はみえないけれども、机に突っ伏しているのがわかった。  店主は酔っぱらいの注文を受けてからずっと寡黙に、湯がいている麺を菜箸で、右回しにしたり、左回しにしたりしていた。酔っぱらい的には、「もうできてんちゃうの」と指摘したくなる仕上がりだったけれども、店主がその手を止めることはなかった。  指摘されるまでその手を止めるつもりが店主にはなかった。  麺はもうできていて、いちばんよい状態をとっくに過ぎていた。酔っぱらいが、いつしびれを切らして口出ししてくるだろうかと考え、あと7分はいける、と自分のなかで自分にベットして、無意味に麺をもてあそんでいるのだった。そして実際口出ししてきたら、  素人が、しゃしゃんな!  と言うてやろう。ほなら絶対に取っ組み合いになるやろ、したらもう、この寸胴の中身をこいつの頭にぶちまけんねん。いや、自分でかぶったろうかな。そのほうが相手が、ひるむ気がする。屋台ごと川に放り投げたって、よい。  ラーメンを作りつづけるこの日々に店主は飽き果てていた。その飽きがちょうどいま、頂点に達していた。  だからこそ店主は、自分自身でも知らずはぐくんでいた破滅願望が、きょうというこの日、特にそのつもりもなく湯に浮かべた小麦粉の糸くずと共にきっと花開くことが嬉しく、その顛末を夢想して、口元に笑みをこぼした。  手元の菜箸は湯気を吸いあげて、ほの暗い熱を帯びていた。  そして酔っぱらいがついに辛抱ならなくなって口をききそうになったとき、あいだの客がおもむろに立ち上がり、となりで寝ている女を指差しながら、店主に向かって、 「こいつにつけといて」  と言うて、顔もよくみえぬまま立ち去っていった。  一陣の風が残った者どもの持て余したからだを冷たく撫でていくと、あとには沈黙が残った。酔っぽらいは、勘定をつけられた女の手の甲に、ちょうど冷水のコップがふれていて、何かの拍子に倒しそうなのが気になってみていたが、気がつけばそのうずもれつつもちょっとのぞいている寝顔のほうに視線を向けていた。  店主もまたその勘定をつけられた哀れな女をみた。菜箸を回す手が止まり、火を止めた。黙って作ったラーメンを、黙って酔っぱらいに差し出した。酔っぱらいも黙って啜った。啜りながらも、やはり女の顔をみていた。  だから、水滴がコップの肌を伝って、彼女の手の甲をながれると同時に、女の目にも涙がながれるのを、酔っぱらいも店主もしっとりとした眼差しでみとめた。店主はたまらなくなり、女の肩をたたいて、こう言った。 「もう閉めますさかい、起きてください」  酔っぱらいにはわかっていたのだが、まだそんな、閉めるような時間ではなかった。女があんまりかわいそうなので、帰らせてあげたかったんやろう。そうでなければ酔っぱらいは、眼前でまだ半分以上残っている丼を店主に突きつけて、 「おれが、まだ食うてる途中でしょうが」と怒鳴りちらしたにちがいない。 けれどそうはならなかった。酔っぱらいはいそぎ汁を飲み干し、すかさずコートから千円札を二枚出して、店主に持たせた。それはおよそ三人前の勘定だった。  店主はこころよくそれを握りしめた。  そうした一夜の連帯は、ささやかに灯る提灯のように、星もみえない夜の空をほんのすこしだけ、明るくしました。  言うてね。  女が目を覚ましたら、酔っぱらいとまっさきに目があった。そして女は涙をぬぐい、 「やってくれたわね」  と酔っぱらいに向かって言うた。 「何がです」  きくと女は、いまのいままでみていた夢の話をしはじめました。それは薄氷のうえをじろじろと歩く夢だった。凍った湖のうえにいるけれど、岸らしきものはどこにもない。どこからきたのかもわからんという具合。ゆっくり歩けば割れることはなさそうやから、そうするほかない、そうする以外にどうしようもないからそうする、というだけのことを、させられる夢やった。  そこへ、後ろから、誰かが急にわたしを押した。体勢をくずして前のめりになったわたしは、思い切り氷を踏み抜いてしまった。一帯の氷にことごとくひびが入り、ふちを掴んでも、からだを持ち上げようとするとそこがまた割れてしまう。  冷たい!  体温がみるみる奪われて、死にそ、思て、じたばたしてたら手が何かきゅうに柱をつかんだ。  いや、柱やとはじめは思たけど、握りをたしかめると、ちょうどひとの足をつかんでるときのグリップ感やったんで、  足や、  思て、見上げたら、べつにわたしに手を差し出してくれるでもなく、ただただ残忍な目で、わたしが溺れるのをじっと見下ろしている人間が立っておって、それが、 「お前や」  掴みかかってきた女に、酔っぱらいは反論します。 「そらおかしい。きみとぼくは、初対面やろ。ぼくがはじめてきみの顔をみたとき、もうきみは寝ていたし、そのときにはもう、きみはその夢の中へ居ったわけで、それで今やんか。ぼくが夢の中へ出てくる余地なんか、ないでしょう」  女はうなずきながらそれをきいていたのだが、酔っぱらいが喋り終わると、 「言うてることが何もわからん」  と怒鳴りつけた。 「何がわからんねん」  女の手にはまったく力がこもっていなかったので、酔っぱらいは簡単にそれをほどいて、肩に手をまわさせた。  そしてラーメン屋を出た。  ひと気の失せた川沿いの道から堤防をあがって、さっさとタクシーでもつかまえようというつもりだったのだが、酔っぱらいも、酔っぱらっていたから、ほとんどすべての体重をあずけてきよる女に重心を持っていかれて、なかなか階段をあがるつもりになれなかった。酒気にふれる夜風もまた気持ちがよい。もうちょい向こうにスロープがあるから、そこまでこのまま、しばらく歩こかな、思て。肩にまわした女の手がときどき頬にあたってきて、それは水滴の名残りで冷たいが、寝ていた分だけ身体はあたたかかった。女は横で、一瞬はだまったかと思ったが、また口をひらいて、「ドリカムききたい」、「まじでききたい」、「わたしがまじでと言うたら、それはまじやぞ」、「ドリカムきかして」、「何んでお前はドリカムのひとつもきかしてくれへんの、こんなにも頼んでいるのに」などなど放言しはじめたからよっぽど地面に落として帰ったろうかと思いよぎったけれども、本気にはなれなかった。酔っぱらいは、女の面倒をみることで、ひとりになるとどうしても考えてしまう、自分というものの現状や、人生全般の面倒について考えることを放免する口実を得ていたから、後ろぐらくはあるけれども、やりがいを感じてもいた。請け負わされた拘束を手放したくないという、一種の執着がそこにはあった。きょうが終われば、明日は仕事や。  女はいつの間にか、「帰りたくない」「帰りたくない」と下を向いてうわ言のように繰り返すだけの体になっていた。横を向くと女の瞳がすぐ近くにあり、自覚せず泣いていたあとのその顔は、酔っぱらいにとって、結構エンジェルだった。  それに見とれて、酔っぱらいがつまづいてころんだ。  何かと思って暗がりをみると、かなりみえづらかったけれども、そこには鳩がすわっていた。蹴られてもなおじっとして、寝ておる。 「帰られへんかったんや」と女が言いました。「鳥て夜目がきかんから、何かミスって巣までもどられへんかったら、動かれへんねん」 「それにしたってこんな道のうえで寝るあほはおらん」と酔っぱらいが起き上がって言うた。 「わきに移してあげよか」と女。「あっちの草むらに囲まれてたほうが寒ないやろし、あんたみたいなあほに蹴られる心配もない」女は鳩を両手でおしりから持ち上げた。鳩はたしかにじっとしていた。 「鳩さわったらあかんやんか」 「あ?」 「ばい菌だらけやねんで」 「それな、言うよな。病気なるでて、むかし親にも言われたわ。わたし、ようわからんねんな。だってそんなん、見た目ではわからんやんか。ほらこんなに毛並みがきれい」 「見た目にだまされたらあかん」 「うるさ。あんたも、さわりや。何ともないから」  そして鳩の押しつけ合いがはじまった。女が赤ん坊のように抱きかかえた鳩を持って酔っぱらいににじり寄り、酔っぱらいがそれを退ける。傍目には乳繰りあいにみえ、酔っぱらいも嫌がりながら、その迷惑をたのしんでもいて、ふたりはこどものようにはしゃいだ。はしゃいでいるうちに、鳩が、鳩は寝ていたのではなく我慢していたのだが、ついに痺れを切らし、というのは人間的な表現で、実際には生物の防衛本能を発揮して、ふいに女の目をくちばしで突いた。  痛った  女が言って、あたりが静寂に包まれた。鳩が地面に着地した。酔っぱらいは女に声をかけたが、女は目を押さえてうずくまったまま返事をしない。すると鳩が、女の尻をついばみだしたので、男は、 「やめろ」  と鳩に言った。鳩がその言葉をきいてやめることはなかった。酔っぱらいはすこしなやんだが、鳩をつかまえようとした。したら今度は酔っぱらいに飛びかかって暴れた。そして今度は酔っぱらいの目に、鳩の硬い爪が刺さった。  視界が消えた。うしろに倒れ込み、地面に背を打ちつけるかと思われた。しかしちがった。そこに地面はなく、酔っぱらいはどこまでもうしろに倒れ込んでいった。  そこがさいしょの穴でした。

ところでみなさんはこんな話を知ってますか。  外国にむかし、花火子ちゃんというかしこいゴリラが居ました。ひとの言葉がわかるといいます。数の計算もできるし、手話で会話ができた。手話て、あなた、できます? ふつうできへんよね。  そんなかしこいゴリラに付き添っていた動物研究者があるとき、こうききました。  あなたたちゴリラは、死んだらどこ行くの  花火子はこう答えた。  苦痛のない 穴に さようなら  ほんまやろうか。

酔っぱらいがもう百遍以上は穴に落ちていた。そのたびごとにむち打ちになり、痛みでしばらく動けなくなる。目を開けても閉じてもおんなじ暗闇で、彼にとってはもう、どこからどこまでが自分の身体なのかを教えるのが、その痛みしかなかった。この痛みまでなくなったら、そこがほんまの終わりなのだと気づいていた。だから彼はどことなく、もちろん彼自身はまったくそのつもりはないのだけど、かすかに笑っていた。  安堵していたのだ。 「何の音?」  もうとっくに数えてないけど、どこかの地点で酔っぱらいが身悶えしているところでふいにそんな声がきこえた。酔っぱらいには反響するその声におぼえがあった。もちろんさっきの女である。  女もまたおなじ穴に、酔っぱらいよりも先に落ちていた。酔っぱらいがそこへ追いついたのだ。女もまた、おなじだけの痛みを味わっていた。 「おれや、おれ」と酔っぱらいは言った。 「おれて、だれや」と返事がある。名乗っていないからほかに言いようがない。さっきお前を介抱してあげてた者ですよ、と言うても、 「それ何の話」と言われ、そらそうやろうな。もうええ。起き上がって身体中ひきずりながら声のするほうへ行ってふたりは落ち合った。  といっても互いの姿はわからへん。どのくらいの距離感なのか掴めなかった。  女が、 「これっていまどういう感じ?」とたずねた。  酔っぱらいは答えます。 「わかるやろ。穴に落ちたんや。おれらは死んだんや。あのあほの鳩にどつかれて。  ここは地獄や。まっくらで何もみえん。歩いてたらいきなり穴に落ちて、どえらい痛い。けど歩く以外にすることなんかないんや。穴に落ちる以外にできることが、何もない。そういう地獄なんや。地獄てお前。何でやねん。おれなんか絶対、天国やんか。ああもう、  泣きそう」  酔っぱらいは腕を目に押し当てて瞳のしめりを拭ったのだが、そのとき、みょうな違和感があった。酔っぱらいはまさかと思って、寒気がはしったけれども、もういちど、今度は親指をおそるおそる自分の目に近づけた。涙が出ていると思ったのは、錯覚だった。  親指は付け根までふかく眼窩に、まるでそこが親指の専用のキャップであるみたいにちょうどよく収まっていった。そこには涙どころか、眼そのもんがない。  最悪や、と酔っぱらいは叫んだ。必死の思いで両手をみつめてみる、けれど暗闇では何もみえない。手もこれ、ほんまにあるんか?  そこにあるはずのもんがないならば、もう、おれというのは、ないもんなのかもしれん。酔っぱらいは、吐きそうになった。けれどそれだってただ、生きていたころの感覚が回想されているだけや。吐きそうな気がするだけや。そんなん、まじで最悪やん。  とそこへ、 「なんや」腹を押さえて嗚咽している酔っぱらいの耳に、女の声が反響した。「最悪なだけか」  ふいに女の手がみぎ肩にふれるのを感じ、酔っぱらいはびっくりして身をのけぞらせた。思わず振り払ったが、またさわられた。何よ、と酔っぱらいはつぶやいた。その声はか弱くうろたえていた。 「こういう、何もみえんようなときはね、さわれる壁とかを伝っていくもんなのよ。今回は壁がないから、あんたを伝っていく」 「伝う?」 「ふたりで落ちたのはラッキーやったね」 「何言うてんの」 「わかるやろ」と女は口元を近づけて言った。「私たちはまだ一度も穴になんて落ちていない」  酔っぱらいは、その意味をはかりかねて黙っていた。黙っていると今度は左の肩にも手を置かれた。 「いい? 穴に落ちる前と、あとでは、世界はまるきり変わるのよ。  おむすびが落ちた先に、ねずみたちの世界があるように。  国境の長いトンネルを抜けると雪国であるように。  うさぎの抜け穴からアリスが不思議の国に行くように。  こっちと、あっちは、まったくちがう世界でなければならないのよ。穴っていうもんはね。そしたら、ここはもといた場所とそんなに大差ないやない。  であるならば。  私たちはまだ一度も穴になんて落ちてない。  それが道理やんか」  男は反論します。 「大差ないことは、ないんとちゃうの」 「いや、ないね。こんなん、一万回落ちたって、何度でも一緒。ねえ、  おなじように、してみて」  そう言うと女は、手探りで、肩においていた手を片方、酔っぱらいの頬まで這うように寄せていった。  酔っぱらいの頬にやわらかな手の感触がした。そこに自分の頬がある。酔っぱらいもおなじにした。このあたりが女の頬かなというところに、女の頬があった。「そう」と女はつぶやいた。「みえへんもんは、好きにイメージしたらええ」あたたかなひとはだの温度が伴っていた。  手は、一度鼻先をくだって眉間を引き返し、やがて酔っぱらいの目尻に、女の小指がとどいた。  女の手もまた男の目の中に入っていくのが、入り口となるまぶたの感触でわかった。けれど目の奥では何の感触もなかった。酔っぱらいもまた、女の目のなかに手を入れた。  痛いか? と女がきいた。酔っぱらいは、声をふるわせて答えた。ううん、痛くない。  それはどこまでも入っていった。手首が入って、腕も入った。 「ねえこれっていまどうなってんの」  たまらず酔っぱらいがたずねると、 「黙って」  と女は言った。 「黙ってわたしを伝っていけ」  女はもう残していたもう片方の手で、酔っぱらいを背中から抱きよせた。すると目に入れていたほうの手が一気に肩まで入った。女は、 「落ちるよ」  と言ってつぎの瞬間、限りなくふたりの距離が近づいたかと思うと、酔っぱらいは唐突に女を押し倒すかっこうで前のめりになって倒れた。けれどそこに女はおらず、手をつこうとした地面もなく、そのままくるりと、前回転を繰り返して、酔っぱらいは穴に落ちていった。  で、目が覚めると、朝だった。酔っぱらいは川辺の草むらに頭をうずめていた。草が鼻の穴をなぞって、くしゃみが一発でた。鼻水が草について、草についた鼻水がまた、鼻についた。  起きあがると、橋の頭上に、朝日を背にした鳩の大群が向かってきているのがみえた。そして酔っぱらいを見向きもせず川の底があさいところに着地して、みんなして水を飲んだ。よくみるとそこには鳩だけではなく、鴨もいたし、雀もいたし、よく知らない鳥もたくさん混じっていた。それをみて男は、自分の喉がとてもかわいていることに気がついた。  酔っぱらいは鳥の群れと一緒に川の水をしこたま飲んだ。そしてきのうとすっかり入れ替わったあたらしい、きれいな朝の空気を思いきり吸いこんで、吐きだした。落ち着いたら川を出てベンチに座った。銭湯のタオルを肩にかけた上裸のおじさんが横を駆けて過ぎていった。しばらくあたりを見回してみたが、どこにも女はいなかった。  それでやっと酔いが覚めた。    て、  ああ、何か、見入ってまいましたね。  みなさんすみません。酔っぱらいは、死にませんでした。残念やけど、よかったですね。でも死にそうなひとが来たらまたすぐ連絡しますから、そのときはまた都合つけてもらえたらと思います。  そしたらまあ、きょうは解散ということで、ひとつ。